「Salicus Kammerchor 第9回定期演奏会〜ハインリヒ・シュッツの音楽vol.4《白鳥の歌》」

サリクス・カンマーコアは、いま現在の私の推しの中でも早見沙織と並んで貢いでいるアーティスト。古楽、中でもキリスト教会音楽を専門とする合唱団。

https://www.salicuskammerchor.com/concert

その演奏会を聴いてきた。

サリクスは見るからに(文字通りヴィジュアルからして)個性的な歌い手が、それぞれにその個性をきちんと発揮して歌っているのに完璧に調和していて、もはや驚異。張り詰める緊張感とは違う、もっと自然な、柔らかな空気の中に溶ける歌ごえ、私自身もその調和に参加していくような体験。「癒し」というと現代ではなんだか安っぽい感じもしてしまうが、癒されました。

 

ところで当ブログで古楽といえばこちら。

uncountable.hatenadiary.com

みんなだいすきQuartette Provisoireですが、↑の記事でも触れたようにQPが「世俗曲」を専門とするのに対して、今回のサリクスは「教会音楽」がメインレパートリー。つまり中世〜近世あたりのキリスト教会で祈りとして演奏された音楽。それが何であるかをきちんと語る知識を私は持たないのだけど、たとえばこれ↓

youtu.be

Ensemble Salicusはサリクス・カンマーコアのメンバーの中から少人数で構成されたアンサンブルで、こういったグレゴリオ聖歌(単旋律でハモらない聖歌。だいぶ古い。)なんかを歌っているのだけど、この「サリクスのグレゴリオ聖歌」はマジで唯一無二。「祈り」としてちゃんと「あちら側の音楽」であるから、感性を消費せずに聴ける。メンタルが落ちて音楽聴くのすらしんどいような時でも、すんなりと沁み込んでくる。なお私は常々「サリクスのグレゴリオ聖歌は脚のむくみが取れる」と本気で主張している。

あるいはこれ↓

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ジョスカン・デ・プレ、わりと古い時代の人なのだけど、サリクスのジョスカンを聴くとこれはもう音楽の到達点でこれ以上いらない、みたいな気分になる。しかし実際にはその後の時代もどんどん新しい音楽が作り続けられておりジョスカン以降も音楽を諦めなかった人類すげえなって思う。

それからこれ↓

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ご存知バッハ。サリクスのレパートリーの中でほとんど唯一の一般知名度の高い作曲家かついちばん新しい音楽。しかし、バッハの時代のバッハの音楽はこうだったかもしれない、という時空を超える体験ができるのがサリクスのバッハ。

なおサリクスではこんな↓クラファンをやってるので皆様におかれましても是非支援してほしい。

camp-fire.jp

 

さて今回の演奏会は「ハインリヒ・シュッツの音楽vol.4《白鳥の歌》」と題される。

ハインリヒ・シュッツは16世紀末頃から17世紀に生きた人で、時代的にはバロック音楽。音楽室の肖像では見覚えがないし、正直私もサリクス聴くまでよく知らなかったのだけど、音楽史的には重要人物みたい。サリクスではここ数年このシュッツの音楽を扱っていて、そのシリーズ最終回を飾るのが「白鳥の歌」である。

白鳥の歌」は通称で、旧約聖書の『詩篇119』全テキストにシュッツが作曲したもの。その全11曲を演奏する、というか、それのみのプログラムによる演奏会。

とにかくテキストが多くて素人目には似たような言葉をずっと喋っている感じなのだけど、この「似たようなテキストの繰り返し」に対してシュッツにより多彩な手法で音楽が付けられ、サリクスによりそれが詩の本来の姿であると思わせるような響きとして顕現する。音楽として最高に壮大で崇高で、それでいて人間的で心を打つし、それを歌い切るサリクスが本当に尊い

また、対訳を読みながら聴くことで感じるものが多かった。「この1行に対してのシュッツの意図」が、かなりはっきりと聴いて取れる(部分もある)。あと、忘れてはいけないこととして、パンフレットの対訳が見やすかった。いや、特殊なレイアウトをされているわけではないけど、1ページに1曲ずつ歌詞と対訳を載せた結果パンフの半分以上を占めるという、印刷パンフとしてはなかなか贅沢な紙面の使い方で、だからこそ大きな文字でラクに歌詞と対訳を読める。なんだそんなこと、と思われるかもしれないが、字が小さいと読むのに集中力を使って音楽を楽しめなかったりするので。(だから対訳を読むのをあきらめたりするので。)

ところでこちらの演奏会、なんともう1回、5月9日(木)にも豊洲で公演があります!チケットまだ買えるのでぜひどうぞ!

t.livepocket.jp

なお私は2回目も行くつもり。なにしろ当方「定期会員」なので、2回の日程いずれもご招待なのです。