「Quartette Provisoireクリスマスコンサート2〜ラッソと巡るヨーロッパ」

Quartette Provisoire(カルテット・プロヴィゾワール)は「フランスのルネサンス時代の声楽作品を演奏するカルテット」(公式Xプロフィールより)。クリスマスコンサートを聴いたので感想です。といっても12月2日のことで、遅くてすみません。

 

小さなプライベートホールでのコンサートは、とっても素敵で楽しい時間だった。「ルネサンス時代の声楽作品」とはなんとも高尚な語感だが、まったく気張るところのない柔らかな空間。

適度な「内輪っぽさ」が良い。それは暖かであるとか、奏者の自然な振る舞いとか、物理的に距離が近いという意味であって、排外的とか馴れ合いとかでは、決して無い。

そもそも、歌がやたらと上手いのである。バスの小藤さんに至っては喋るだけでホールに祝福されてんのかという響きっぷりで、楽曲解説を小一時間聴いていたい。加えて、テノール村上さんの甘く色っぽい声、アルト小阪さんの大黒柱たる豊かな響き、ソプラノ鏑木さんの美しい色彩。カルテットの4人ともが素敵な声の素晴らしい歌い手であるが、とにかくアンサンブルがすごい。テクニカルにアンサンブルをこなしつつ、なんといっても楽しそう!!これぞアンサンブル!!これがアンサンブル!!!

という感じでこっちも楽しくなる素敵なクリスマスコンサートでした。

 

ところで、いま流行の「古楽」、いや流行ってるのは私のなかだけ?かもしれないけど、世の中にはけっこう古楽の演奏会というものがあって、たまに聴きに行く。

古楽っていうのはおおむね「古典派より古い西洋音楽」ということになっている、らしい。つまり中世〜ルネサンスバロックあたり。「中世」というのがやや曖昧というかめちゃ長いのだけど、音楽を扱う場合、年代的には多くは15世紀から18世紀くらい。器楽のアンサンブルもあるし、私が行くのはやはり声楽アンサンブルが多い。

声楽で古楽というと、まず教会音楽が思い起こされる。いや、そもそも「声楽で古楽」に対してなにかを思い起こす人の方が少ないかもしれないが。この、中世やルネサンスの教会音楽というのがまた美しいのだけど、それはそれとして、今回聴いたカルテット・プロヴィゾワールが歌うのは教会音楽「ではない方」の古楽、いわゆる世俗曲というやつ。

世俗曲っていうのは世俗の曲なので、要は教会の外で一般人が演奏するなり聴くなりしていただろう音楽。まあ一般人といっても貴族が多かったりはするだろうけど、現代の我々と同じノリで音楽を楽しんでいたはずだ。

もちろん違うところは大いにある。まず楽器が違う。ただし「使われる楽器が違う」ということよりも、どちらかというと「歌の比重が高い」という点の方が大きな違いでは。「声」という楽器がいまよりもずっと「それしかなかった」とは思う。

それから録音技術が無いので、聴くとすれば生演奏。プロの興行もあっただろうし、歌が上手い近所の人が広場で歌うのを聞いたりしたかもしれない。気に入っても録音は無いので、鼻歌で歌ったかもしれない。家族や仲間で集まって即興伴奏で合唱したのかもしれない。

世俗においても、音楽の受容の仕方は、当時と今ではけっこう違っただろうと想像する。私が古楽を聴く楽しみのひとつが、そうした何百年も前に生きていた人々と繋がる瞬間。その音楽を聴きながら、ああきっとこうして音楽を奏で歌っていたんだなあと、ひととき、時空を超える。

さらに、近年の古楽研究発展の成果により、古楽は「当時の楽器」で演奏されることが多い。あるいは「当時の記譜法による楽譜」を見て演奏されたりもする。演奏者もそのつもりだから、より一層、当時の空気に近づくことができる。

そして何より面白いのが、歌詞。

そう、歌詞の内容は、いまと変わらない。ヒトが考えることなんて昔も今も変わらないんである。つまり、色恋はもちろんのこと、景色がエモい、生きるのがしんどい、でも頑張る、祭りだワッショイ、酒持って来い、みたいなこと。なんなら現代よりも「品のない」歌も多い。(現代でも観測範囲外にいくらでもあるとは思う。)そういう良くも悪くも「人間らしい」歌詞に触れると、古楽の世界をより身近に感じることができて楽しい。

カルテット・プロヴィゾワールも、そういう歌を取り上げている。というか、それが聴きたくて足を運んでいると言ってもいい。今回も、修道士が修道院の外に出たとたんあんなことやこんなこと〜みたいな、酷めのやつ。いや、改めて考えるとこういう歌詞は誰がどんなノリで書いてるんだろうな…ほんとしょうもないな…(褒めてはいない)

 

そんな古楽アンサンブル、首都圏ではわりと気軽に聴ける機会も多いけど、「気軽に歌う機会」は案外少ない気がする。日本に合唱団は数えきれないくらいあっても、気軽なノリで古楽をやる団体ってあるかなあ。自分でやるのか?