「Iの悲劇」

しつこく米澤穂信

当然ながらクイーンの悲劇三部作へのオマージュとしてのタイトルでしょう。って言っても私はどれも読んだことないんですが。米澤穂信って「自分の作品を足掛かりにミステリの名作に触れて欲しい」的なことも言ってて、特に古典部シリーズなんかは若者向けにその辺かなり意識してる部分ある。それなら、まあ、せっかくなので今度クイーン読んでみようか。若者ではないけど。

オマージュもと(オマージュは「先」か?)の各作品のXYZはそれぞれなんか意味があるんだろうけど、もちろん「I(アイ)」にも意味がある。書籍情報に載ってるレベルなので言ってしまうけど、「Iターン」のI。地方への移住のIターン。

「Iターンって何やねん!ターンしとらんやんけ!」というお決まりの批判があるが、「ターン」を一般化することで「I」も「0°ターン」としてターンに含めると考えれば、わりと上手く定義したなと思わなくはない。いや本作とは全く関係なく、すっごいどうでもいいことですみません。

とにかく、無人集落へのIターンプロジェクト担当者(市役所職員)と移住者たちの周りに巻き起こる「悲劇」の記録である。

米澤穂信らしい、ライトで多層的でモヤるミステリー。ただ、いちばんこの作者らしいと感じたのは、主人公の相棒?で「新人女性職員」の観山遊香についてのルックスへの言及が「ポニーテールが公務員に似つかわしくない」「座っている姿勢が美しい」くらいしかなかったことかな…。というかそれらもむしろ文章として必要だから書かれているという部分もあり、余計なことは何も言っていない。他の登場人物への言及も最低限、主人公の主観として、程度。人物の見た目への言及は余計なことというスタイルは好感がもてる。しかしながら私の中で観山はほぼ吉岡里帆

ミステリーは初心者だが米澤穂信だけはだいぶ読み慣れたので、これは最後に何かあるんだろうな?という予感はずっとあった。が、なにしろミステリー初心者なので、その「何か」がなんなのかは全く予想がつかなかったし、そもそも読み方として予想とかしない。まあ、予想が苦手なんである。その点、そんなに「推理」をしない(一方で市民の顔色や法的な是非については常に考えを巡らせている)主人公には、少し共感があった。

むかしはそうやって「予想できない」「予想を当てられない」ことに若干のコンプレックスもあって、それが積極的にミステリーを読まない理由でもあったかもしれない。最近はどうでもよくなったというか、わりと「文体」の好き嫌いで本を読むようになりつつあるので、普通にその本に沿って展開を楽しみに読んでる。2回目読むといろいろわかる、みたいのはむしろ苦手。まあそれも、内容の面白さと文体の好み次第だけども。

本作は、そのへんバランス良くて好きだった。2回目読むといろいろわかることもあるのかもしれないけど、1回だけ読んで面白いならオッケーです。