「東京工業大学混声合唱団コール・クライネス第58回演奏会」

プログラム冒頭、第1ステージの

「二つの祈りの音楽」(詩・宗左近、曲・松本望)

が聴いてみたくて、仕事納めた足でミューザ川崎へ。いや仕事は納まりませんでしたが。

コール・クライネスは東京工業大学の学生中心のインカレ合唱サークル。とはいえ、100人規模の団員を擁し、60年の歴史を持ち、毎年のコンクールでも良い成績を残している、まあ界隈では有名な大学合唱団。その合唱団が、だいたい毎年年末に開催してる自主企画の演奏会。

お察しいただければと思うが「知らない合唱団ではない」ので、これまでもしばしば演奏会を聴いていたが、このところはご無沙汰していた。前回は5年以上前…か?今年はタイミングが合って行きやすかったのと、はじめに書いたとおりプログラムが動機でチケットとった。

演奏会の構成は全部で3ステージ。最初に団歌を披露した後に、件の第1ステージ。そして第2ステージはスウェーデンの作曲家による無伴奏作品を2曲、第3ステージはイギリスのラター作品、と続くのだけど、まあいいじゃない。もうね、第1ステージがちょっと信じられないくらい素晴らしかったので。いや、第2、第3ステージがそれに比べて〜、という意味ではなくて、1ステでお腹いっぱいでその後は聞き流さざるを得なかった。なんなら帰ろうかと思った。(けど最後まで聴いて、そしたら3ステの金管アンサンブルがとんでもない質の高さで、あれはほんと聴けて良かった。)

コール・クライネスの演奏会の第1ステージはいつも学生が指揮をするステージ。毎回、どんな指揮かな〜と楽しみにするのだけど、今年の長森さんめちゃくちゃ上手い。指揮を振るのが上手いのはもちろんなのだけど、むしろ演奏から感じるものが多かった。明確なビジョンの共有、丁寧なディレクション、そして歌い手との信頼関係。背後に伺えるそれらの成果があるから、大きな動きが無くても求める音が鳴る。

いうて音楽を専門にしているわけでもない学生である。簡単なことではないことは明らかである。苦労も多いことだろう。ただ、ご本人の資質として、「詩の世界を、言語化して団員に伝え、ディレクションに落とし込む」みたいなことがとても上手なのではないかと想像する。しかも、プログラムノートを読めばわかるように、詩を、詩的に(解説的のみではなく、)伝える言語力がある。

ところで、このステージの曲を作った松本望という作曲家。私はこの人の書く曲がけっこう好きなのだけど、好きポイントとして「詩の世界を音楽に落とし込む技法の詩的面白さ」がある。つまりこの松本望作品と、長森さんの指揮の相性がめちゃくちゃ良いんじゃないかと。ついでながら、そういうことなので当たり前のようにめっちゃ私の好みだよと。

というか歌い手もみんな好きなんじゃないの?松本望の作る曲と、長森さんの作る音楽が。でないとあんな集中力で演奏できないと思うよ。刺すような緊張感、ほとばしる音への喜び。豊かに響くフォルテ、叩きつけるフォルテ。刺すようなピアノ、この上なく柔らかなピアノ。長い長いクレッシェンド、鬼気迫る無声音。松本作品に特徴的な色彩とコントラストが、素晴らしい形で音として再現されていた。それは指揮者にそういうビジョンがあって、それをきちんと言葉で説明できるからだし、さらにそれを歌い手が受け取って、初めて成立する。

「二つの祈りの音楽」の2曲目「永遠の光」は、そのきらめきを浴びすぎて聴いていて泣いちゃった(ほんとに)。そういう音楽が、あのホールに、あの瞬間に存在しました。歴史的名演に数えて良い。聴けて幸せだった!ありがとうございました!

 

蛇足ながら、これはことあるごとに言ってるのだけど、演奏会パンフレットのスタッフクレジットに「下振りの学生指揮者」も入れてほしい。彼らがいなければ活動は成立しないのだから。裏側で十二分に労われてるというなら、それはそれでいいけどね。