「たまたま生まれてフィメール」

私はフェミニストなんだが、その私がフェミニストを自覚するきっかけとなった人のひとりが、小川たまかさん。フリーライターという肩書のようだけれど、性暴力や性差別に関してもっとも信頼できるジャーナリストである。

『たまたま生まれてフィメール』は、その小川たまか最新刊。

www.heibonsha.co.jp

最新と言っても昨年2023年の5月に出た本。読んだのも出てからすぐなので、やや今更感はあるのだけど、思うところあってこのたび読み直したもので、改めて感想です。

 

はじめに言ってしまうと、小川たまかさんの本、正直なところ私は文章が好きで読んでます。

とにかく文章が読ませる。絶妙な距離感、軽やかなリズム。シンプルな色彩ながら多様な質感で立体的に描かれる世界。語り口は軽いから侮ってしまいそうになるが、書くこと、言葉を選ぶことに生命を注ぎ込んでる人の文章だと思う。

文章が好きすぎるので、ほぼ毎にち日記がとどくメルマガにも登録してる。

ogatama.theletter.jp

 

とはいえやっぱりフェミ本としてとっても勉強になる。性犯罪や性差別の話なんか、どう転んでも司法や政治が絡み、また時系列がややこしいけど重要、みたいな案件ばかりで、そもそもただでさえ聞くのがしんどい話になるのだが、それでもページをめくらせる推進力が、文章にある。それでいてきちんと頭に入ってくるわかりやすさ。まあーこれが書けるのは著者を置いて他にいない。いまの日本に小川たまかさんがいて良かった。

ただし『たまたま生まれてフィメール』はエッセイのスタイルなので、読んでる方はそんなに固くならずとも良い。ニュースになったような事例の解説と並ぶ、著者の内面やかなり個人的なエピソード、そこではむしろ自身の「フェミニストとしての不完全さ」が綴られたりもする。語られる生い立ちなどにも親近感を覚えることが多く、とってもとっつきやすい。

まえがきに、

「これはそういう、自分の主義主張を貫きたいけれど目先のごはんの心配もしている人間が書いた本です。」

とあって、フェミニストである以前に1人の弱き人間であることを隠さない。

ただ、そこでずっと独りごちてるだけじゃないのが小川たまかさん。視座が次々に移り変わる、そのフットワークが見事。隣を歩いて愚痴をこぼしていたと思ったらいつの間にずっと前方でこちらを呼んでおり、しかし次の瞬間には背後から刃物を突きつけられている。しかもそれがあまりに自然で、読んでる私は気づけないから、なんかいつの間にかズタボロになってるんだよね…。

え?こわい?いやまあ、たしかにある種のサイコホラー体験かも知れない…。みんなサイコホラーとか好きでしょ…。

じつのところ、いやこれを言ってしまうと「本書のおすすめ」にならないかもしれないのだけど、『たまたま生まれてフィメール』は読むのにけっこう覚悟がいる本ではあると思う。私はなんの覚悟もなく読んでズタボロになって、ああこれはまたどこかで読み直さなくてはならぬ、と思って一旦寝かせ、このたび読み直した次第。もちろん感じ方は人による。個人の感想です。私の日頃の行いの悪さ、未熟さがそう思わせているに違いない。私はこの本、自分で立ってひとりで目的地まで歩けるようになるまで、読み返さなくてはならぬという気がしてる。

 

サイコホラー(?)は苦手だけど知識としては学びたい〜という方向けにオススメなのは、

『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房、2022年)

www.akishobo.com

こちらはジャーナリスト小川たまかの真骨頂みたいな本。圧倒的な知見と叙述力で当時の日本の性差別、性犯罪問題の現在位置を描き出しており、もはや教科書として家に置いておきたい一冊。

もっと入門的で読みやすいものなら、初の著作である

『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス、2018年)

tababooks.com

こちらもエッセイベースではあるけど、雰囲気としては『たまたま〜』と『告発と〜』の間くらい?ただし、この5年にだいぶいろいろなことがあったので、情報としては少し「古い」印象があるかもしれない。けれど、それだけに諸問題の根源への見通しが良いし、またエッセンスの詰まった傑作。私もいまだに読み返してる。(サイン本持ってるもんね!)

 

小川さんの本の中にはいつも時空間が広がっていて、いろんな視点から見てる景色を共有してくれる。だから、いつ誰が読んでも、あるいは読むたびに、自分がいまどこにいて何を見ているのかがわかる。上に紹介した3冊とも、そんな「フェミニズムを知る地図」となりうる本なので、全員買って1億部売れればいいと思ってる。