「本と鍵の季節」

古典部シリーズ読んで気に入った米澤穂信。他も読んでみようと手に取ったのがこちらの本。

https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents_amp.html?isbn=978-4-08-744256-4

これの続編にあたる「栞と嘘の季節」と合わせて「図書委員シリーズ」と呼ばれているとのこと。

学校が舞台の謎解きをメインにしたライトなミステリー。図書委員シリーズというだけあって、だいたいは本がらみだけど、基本的には古典部シリーズとやってることは同じで、主人公に舞い込む相談ごとを解決してる間に、思ったよりややこしい問題であることがわかり、当初の相談の目的とは違う形で一件落着と相なるも、なんかちょっとモヤって終わる。そして、そのモヤモヤを積み上げながら話数を重ねていき…というところも古典部と同じ。

いやこれだと「ワンパターン」と腐しているようだが、それでちゃんと面白かったのでいいんじゃないですか。むしろ様式美と言えよう。(様式美がわりと好き。)

そんなことよりも、この作品、すごく驚いたことがある。感動したと言ってもいい。そう、主人公である堀川次郎と相棒(?)の松倉詩門は2人とも共学高校の2年生男子。にもかかわらず、である。にもかかわらず「派手ではないが可愛げがあり友達もそこそこ多いのにつるむわけでもなく主人公との微妙な距離感を保ちたまに核心を突く発言をする男好きのする女子」が出てこないのである!おらんやろそんなやつ、がいない!革新的!

というわけで、びっくりするほどただの高校生男子の友達同士の話である。もちろん、この男子2人の距離もいたって平凡。

そういえば、ホモソーシャルの権化みたいな身体と声がでかい脳筋男子とかも出てこない。考えてみると、この本でも古典部シリーズでも、高校生の邪悪なキャラクターっていないかも。一面的には主人公にとっては対立したり面倒だったり恨まれたりする登場人物も、それぞれそれなりに事情を抱えているふうに描かれる。これは「どんな人にも事情があるよね」ということではなく、単に「事情があるキャラクターを使って物語が編まれている」のだろう。つまり、邪悪な高校生も中にはいるだろうが、それを物語には登場させない、そういうところに物語の皺寄せを持ってこない。だから主人公の心理としてはモヤっとしても、読後感はスッキリする。

一方で大人には容赦がない。理不尽を振りかざす大人を醒めた目で見る高校生という図式は、確かに一種の快感がある。まあ私はどちらかというと目線を感じてヒヤヒヤする側ですが。